朝のコーヒーと消えたカギ

朝の光がまだ柔らかい頃、アパートの小さなキッチンでコーヒーを淹れる。20代半ばの僕にとって、この日課は新しい一日の静かなスタートだ。コーヒーの香りが部屋を満たし、窓の外の街が徐々に目覚める。

しかし、今朝はいつもと違った。コーヒーを淹れた後、鍵を探しても見つからない。昨夜は遅くまでデザインの仕事をしていたが、そんなに疲れていたのか、どこに置いたか思い出せない。ポケットを探り、机の上を漁るが、カギの姿はない。

仕方なく、コーヒーを一口飲みながら、昨夜のことを思い返す。僕の日常は、仕事と趣味のデザイン、そして友人たちとの小さな交流で成り立っている。この狭いアパートは、その全ての中心地だ。

カギがないという事実に焦りながらも、このコーヒーの一杯が不思議と心を落ち着かせてくれる。その時、昨夜、友人のマイから受け取った小包を思い出した。遅くなった礼を言いたくて、彼女のアパートに寄ったのだ。そういえば、その時にカギを…。

慌ててコートの内ポケットを確認すると、そこにはカギが。安堵の息をつきながら、窓の外を見る。朝日が街を金色に染め上げている。僕たち若者は、日々の忙しさに追われがちだが、こんな小さな出来事が、日常の大切さを教えてくれる。

カギを握りしめ、再びコーヒーを口にする。このコーヒーが、ただの飲み物でなく、一日の始まりを祝福する儀式のように感じられる。部屋を出る前に、もう一度、窓の外を見る。新しい一日が、そこにはある。

この朝のコーヒーと、一瞬消えたカギ。些細な出来事だけれど、僕たちの日常は、こうした小さな瞬間に色づいていく。そして、それがまた、新しい物語へと繋がっていくのだろう。